これも、投稿はしていない、忘れ得ぬ人々のお話です。
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「組の事務所」事件からしばらくたった、ある夜のこと。アパートの部屋でウダウダしていると、どこからともなく音楽が流れてきた。
洋楽、ロックだった。
その後、その曲を何度も聴くことになるので、20年以上経った今でもそのメロディを口ずさむ事が出来る。リマールのネバーエンディングストーリーにちょっと似た曲。だが、洋楽にはうといので、未だにその曲名を知らない。
さても結構な大音量である。隣の部屋からではない。アパートのドアを開けると、どうやら自分の部屋の斜め前の部屋で鳴っているらしい。そして、時折、女性の「ヘーイ」だとか「イェーイ」だとかの合いの手も聴こえてくる。明らかに近所迷惑レベルの音量なのだが、生来、争いごとを好まない性格(ヘタレともいう)の自分は、部屋に戻り、イヤホンを付けて自分の好きな音楽を聴くことでやり過ごした。
その日以降もほぼ毎日、夜になると音楽が鳴りはじめた。ある時、別な部屋の住人が「いい加減にしてください!」と、これまた自分が部屋にいても聞こえるくらいの大声で注意をしたことがあって、その日は静かになった。が、翌日、夜になるとまた大音量の音楽が鳴りはじめるのだった。
トイレ共同のアパートだったので、たまに、その部屋の住民を廊下で目撃することもあったのだが、大人しい感じの女性で、なかなか例の夜の大音響とは結びつき難い感じだった。
夜になると流れてくる曲は、殆どがその洋楽ロックだったが、たまに、大江千里の「六甲おろしふいた」が流れた。
大江千里は、自分が初めてレコードを買ったアーティストで、昔からファンである。生来、争いごとを好まない性格の自分は、「大江千里ファンに悪い人はいない。彼女もきっと、根はいい人のはず」と思い、大音量にも腹を立てないように心掛けた。とはいっても、かかる曲はいつも「六甲おろしふいた」で、大江千里ファンというより「六甲おろしふいた」ファンのようだった。その曲のときは、合いの手の「レスキュー!レスキュー!」がアパートに響き渡った。
ある夜のこと。その夜は珍しく静かな夜だった。
「コンコン」
自分の部屋の扉がノックされ、「はーい」とドアを開けると、そこにいたのは「彼女」だった。
(続く)
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